自転車で100キロ走った話 最終回
20:00まであと少しというタイミング。
11月の風が吹き荒ぶ弁天島の夜は寒い。駅の待合室で弟を待つ。夜の在来線の待合は、ぽつりぽつりと人が来るも侘しさは変わらない。疲れと、眠気と、どのくらい待ったか時間の感覚もわからない。
弟到着!
自転車を拾い、駅前のリゾート感溢れるホテルにチェックイン。フロントにて「自転車、お部屋まで持っていっていいですよ!」というありがたいご案内。では、お言葉に甘えて。
思えば、自分が大学に進学し、就職する間、弟も進学を決め、今回の自転車の企画が始まる頃には年に一回、会うか会わないかの距離感になっていた。住んでる県も違い、社会人と学生の立場の違い…。一緒に住んでいたころはケンカも下らないこともしたが、大人になって会うと、それも全て話のネタというか、笑いあえるものになっていて。
露天風呂で近況報告や昔話に華を咲かせ、今回ここまで至るに起きたパンクやその他不祥事を共有。明日は彼が、浜名湖から知多半島まで自転車を進めていく。
翌朝、快晴の静岡県は、浜名湖から富士山が見えるほど透き通っていた。絶好の自転車日和。ホテルの廊下でご年配の夫婦が「すごい自転車ね!どこまで行くの?」と伺ってきたので、素直に100キロ先まで!と。頑張ってね!と励ましをいただく。こういう出会いも旅の面白いとこ。
弁天島の駅前で、愛知へ向かう弟を見送る。快晴。見えなくなってから、東海道線で浜松駅へ向かい、新幹線で静岡まで帰る。わずか一時間程度。文明の素晴らしさと、ほのかに哀愁を覚える。きっと、この新幹線や鉄道を開通させた人たちは、昨日の自分なんか比べ物にならない苦労を、長いことしてきたんだろうな…。
その夜、無事に弟が帰宅したという連絡があり、一通りの道中は完結した。この連絡があるまで、彼がどんな苦労をしたか自分は知るよしもない。しかし、自分が感じた苦労や楽しさ、発見を、同じように彼が感じたのなら、きっと何か、人生のこぼれ話にもなるだろう。再開したとき、いつかふと、ホテルで話した昔話のように「あのときの自転車のやつ、辛かったよな!」と、笑って話す日がくるのだろう。
道中を収録した動画編集をSEである長男(ここで初登場)に託し、いざバンドメンバーに応募!どきどき。
合否発表!
残念!落選!
まあ、バンド募集に自転車動画送ったら、落ちるよね笑。でも、合否よりも感慨深い何がが得られて、途中から趣旨変わってたし、とりあえず自力で遠くまで行くのは人生というか、心を成長させ、豊かにすることがわかった。
…数年前、思いつきで20代のサラリーマンが自転車で100キロ走ったお話でした。